“めんこ”は遊びの名前であると同時に遊び道具そのものだった。5×7あるいは6×8cm位の大きさで、厚さは画用紙2枚分くらいあっただろうか。表にはカラーの絵が描かれたていた。どんな絵だったか、地雷也、里見八犬伝に題材をとったようなものもあったように思うが、そして地雷也はこの字が正しいかどうかも定かではない。
もっともポピュラーな遊びは、地面に置いためんこの近くに自分のめんこを打ちつけ、地面に置かれためんこを裏返しにすれば勝ちである。勝った場合相手のめんこは通常自分のものとなる。“さば”というのもあった。これは地面に置いためんこの近くに自分のめんこを打ちつけるのは同じであるが、打ち付けたとき相手のめんこが少し地面から浮き、その間に自分のめんこを打ちつけながら滑り込ませるのである。打ち付ける位置、強さ、方向の科学である。勝負のなかで試行錯誤をして技をみがいたものである。
今思えばめんこはかなりギャンブル性があった。“みしま”たぶん“三島”と書くのだと思う。なにせ字に表わすのは始めてである。このゲームは二人以上でする。結論から言えばめんこで三つの島を作ると勝ちである。交互にあるは順番にめんこを置くあるいは打ち付ける。分かりやすいが極端な例で言えば最初の人が一枚地面に置く。次の人がそのめんこと離れた位置に置くと、二つの島が出来る。次の人はその離れた二枚のめんこと離してもう一枚めんこを置くと三つの島が完成し、場に出た三枚のめんこが自分のものとなる。通常は場に出た一枚のめんこに重ねて置いていく。そのままでは勝負にならないので、誰かがいつかの時点で、“みしま”と言いながら積まれて一つの島となっためんこに自分のめんこを三つの島に分離するように打ち付ける。やると宣言しなければならない。やったら三島になってしまったというのは許されない。運よく三島が完成すると場に出たすべてのめんこが自分のものとなる。しかし、不幸にして二島となったときは次の人がたなぼたで、トライした人は全てを失う。4つの島ができてしまったときは、二つの島をくっつけるようにめんこを操作する。 次は“つみ”というゲームである。複数で行われる。これもたぶん“積み”と書くのだと思う。離れないようにめんこを重ねていき、積まれためんこの一枚を裏返せば勝ちである。みしまと違い行為の宣言は必要なかったように思う。ただし、打ちつけたとき積まれためんこのかたまりが複数できてしまったら負けで、すべて相手のものになる。“つみ”にもう一つあって、それはあらかじめ場に10枚とか100枚とかを出してから、その上に一枚ずつめんこを積んで勝負をするものである。つまりレートが上がるわけである。
“みしま”あるいは“つみ”の完成を願ってめんこを打ちつけるときは心臓がどきどきしたものである。いずれにしても腕と度胸がいる。失敗したら全てを失い、逆にたなぼたもある。人生そのものである。